奥河内の名刹・三ヶ寺のうち、筆頭寺院は河合寺で観心寺と金剛寺がそれに続いた。しかし河合寺は衰退し、現在、河内長野での名刹は、延命寺と観心寺、金剛寺となっているようである。これらの河内長野の名刹でさまざまな模様を描く“延段(えんだん)”や石畳を見ることができる。
延命寺は、江戸時代の名僧・浄厳和尚(じょうごんわじょう)ゆかりの寺で、ここに樹齢1000年と伝えられる“夕照の楓(ゆうばえのかえで)”がある。
当寺では、山門に至るまで紅葉がアーケードを作り、足下には、石畳が敷かれ凛とした静寂がみなぎっている。そして山門を潜ると本堂に向かって長い延段が真っ直ぐに伸びている
敷石には、この延命寺のようにある程度形の整えられた切石を敷き詰めたり、長方形や三角形あるいは円形の雑多な石を乱雑に敷き詰めて一つの模様を描いていることもある。。
乱雑に敷き詰めると、それは一つの絵になるが、逆に延命寺のように切石を丁寧に配石していくこともまた素晴らしい。
飛び石は、歩いても土がぬかるまず、そして雨や露から足元が濡れるのを防いでくれる。敷石もその効果は同じであるが、飛び石と違って石と石との隙間がほとんどない。そのため歩幅を気にせずに歩け、しかも歩みを安定させてくれる。その敷石の内でも帯状に長く石を敷き詰めたものを“延段”と呼んでいる。
延段の様式、いわゆる“体”には、“真(しん)”、“行(ぎょう)”、“草(そう)”の三つがあるが、これは日本文化全体にみられる思想である。
“真(しん)体”は、角形の切石を幾何学的に敷き詰めたもので、三種の延段では一番格調が高い。そして真体には、“短冊敷き”や“煉瓦敷き”、あるいは“市松敷き”など四角い切石を敷き詰めたものや、“亀甲敷き”や“氷紋敷き”など菱形の石を敷き詰めたものもある。
“行(ぎょう)体”は、切石と自然石とを組み合わせて敷き詰めたもので、少し柔らかい雰囲気が醸し出される。
“草(そう)体”は、自然石のみを敷き詰めたもので、全体に丸味を帯び、素朴で自然風味あふれ、侘び寂びの世界に導かれるようである。なお、この様式は、“霰(あられ)こぼし”とも称されている。
一般に、表面が平らな敷石を畳のように敷き詰めたものを“石畳”と言うが、当寺の山門まではこの石畳が敷かれ、境内に入ると真体の延段が伸び、山門を挟んで敷石の趣が異なる。
当寺を訪れた時、ちょうど雨が降っていた。苔は生き生きと蘇えり、草木も洗われてひと際その青さを増し、境内全体が雨の恩恵を受け止めているようであった。そして延段も石畳もまたその美しさを増していた。そのため、その洗われた延段を汚してしまうのでは、と踏み足を出すことに躊躇した。
西岡本公平(にしおかもと こうへい)