南海・天見駅前の出合の辻から流谷に入ると、美しい渓谷が広がる。この流谷の渓谷では、多くの南天(なんてん)が庭や石垣などに植えられている。
また駅前から南海の廃線道を南に採ると、この道の両側にも南天が見られ、歩きながら南天が楽しめる道である。
この道は、南海電鉄の複線化に伴って生まれた廃線道で、そのため車は全く入って来ないし、両側は八重桜やツツジ、あるいは紫陽花が花開く、森の中の静かな散策道である。ここは、まさに「奥河内の花樹と花園の道」と言える。
この天見の「奥河内の花樹と花園の道」と流谷とは、南天の郷である。
南天は、6月中旬から7月10日ごろ、真ん中が黄色く、その周りに白くて小さな花が円錐状に咲き、晩秋から真冬にかけて真っ赤に熟した実を付ける。
当地では正月の切り花としてではなく、むしろこの実を薬用として栽培している。
南天は、「難転(ナンテン)=難を転じる」の意が好まれ、鬼門や庭先に縁起の良い木・厄除けの木として植えられてきた。そしてまた、江戸期の百科事典『和漢三才図会(わかん さんさいづえ)』には、「南天を庭に植えれば火災を避けられる」との記述があり、江戸期には「火災除け」として、あるいは単に「魔除け」として玄関先に植えられてきた。
さらに福寿草と寄せ植えにされて「難を転じて、福(寿)となす」「災い転じて福となす」など縁起物の飾り付けとして、あるいはまた、この木で箸を作り「長寿の箸」あるいは「無病息災の箸」としても愛好されてきた。
また樹齢を重ねて大木になると、金閣寺の茶室のように床柱として使われることもあるようである。
江戸時代、長崎・出島に滞在していたドイツ人医師ケンペルは、南天を「Nandina ナンディン」と記録していた。その後、それを知ったスウェーデン人の植物学者ツンベルグは、ケンぺルの業績を称えナンテンの属名を「Nandina(ナンディナ)」と命名した。
「Nandina(ナンディナ)」とは、日本語の「ナンテン」が語源となって付けられた南天の学名である。
南天は、実を乾燥させて「咳止め」の薬に使われ、また葉は「ナンジニン」と言う筆者が全く理解できない、ワケの解らない成分が含まれていて、これに殺菌効果があるそうである。
そのため、節句や七五三など祝い事の赤飯に南天の葉を添えたり、鯛など魚料理にも添える。これは単に南天の実や葉が厄除けになったり、縁起が良いだけでなく、葉には腐敗防止や殺菌力があることを、昔の人たちは長い経験のなかで知っていたからであろう。正に先人の知恵である。
これだけ素晴らしい南天であるから、誕生祝いに植樹をし、還暦祝いにその南天で長寿箸を作る、あるいは、子供や孫の誕生祝いに植樹などしたら良いと思うがいかがであろうか。
天見と流谷は、南天の郷なのである。そしてここでは、南天の実は、冬中見ることができる。
さあ!! 鳥に食べられないうちに、南天を見に行きませんか。
西風狂散人(かわちのふうきょうさんじん)