梛(なぎ)の実がなる!! 奥河内の松林寺

日本では、どの家にでも家紋がある。
しかし世界中で家紋が存在するのは、日本とヨーロッパの貴族だけである。その紋、我が国では神社には「神紋」が、そして寺院には「寺紋」と呼ばれるものがある。
河内長野の松ヶ丘にある真言律宗の寺院・松林寺の寺紋は「竜胆車(りんどう くるま)紋」で、笹と竜胆を車輪状に並べたものである。
なお竜胆紋で最も有名なものは、源義経の「笹竜胆(ささりんどう)」紋で、清和源氏を遠祖にする武家などがこの紋を用いていたようである。
ちなみに、真言律宗の総本山・西大寺の寺紋は、源氏と同じ「笹竜胆」紋で、「笹・竜胆」の組み合わせは同じであるが、松林寺の寺紋「竜胆車紋」とは少し異なっている。
鎌倉時代に西大寺を再興した興正菩薩叡尊(こうしょうぼさつ えいぞん)が源氏の流れを汲んでいたことから西大寺の寺紋は、笹竜胆紋になったと伝えられている。
松林寺家紋 香炉
ナギの木
この松林寺に梛(なぎ)の木がある。
梛(なぎ)の名の由来は、時化(しけ)に遭った夫を安じた妻が神のお告げに従って、木を海に投げ入れたところ、海が穏やかになり夫が無事に帰ってこられたことから、この木は「凪=梛(なぎ)」と名付けられたとのことである。
ナギは漢字では「梛」とも「凪」とも書かれ、学名は「Nageia nagi」と記されている。
凪(なぎ)は、海が穏やかな状態、海が凪いでいる状態を指しており、与謝蕪村の俳句「ひねもすのたり、のたりかな」がそのイメージを湧かせてくれる。
梛は、「海が凪ぐ」に通じることから、旅の安全や平安を祈る、あるいは悩みごとを「薙ぎ倒す」と言う意味にも取られ、梛の木は魔除けのお守りや航海安全の護符として、旅人や漁師に信奉されてきた。
ナギのナギの葉また梛の木は、熊野権現・熊野速玉神社のご神木で、熊野信仰と結び付いてきた。
全国にその熊野信仰を広めた熊野の比丘尼(びくに)たちは、梛の葉を配って勧進を勧めたと、あるいはまた熊野詣での参詣者は、案内役の先達(せんだつ)から護符やお守りとして梛の葉を渡されたとも伝えられている。 
なお八咫烏(やたがらす)がくわえている枝は、梛(なぎ)の枝とのことである。
江戸時代、熊野詣での参詣者は、帰路の道中の安全を祈ってこの葉をお守りや魔除け、護符として衣服や笠などに付けていたが、梛の葉は、阿弥陀如来のナギの実化身・金剛童子(こんごう どうじ)と、そして梛の葉には熊野の神様が宿っているとも考えられていたからである。
そしてまた、この梛の葉を持って帰ることは、熊野詣をした証でもあった。

梛について興味深い話が伝わっている。
伊豆に流されていた源頼朝は、梛の木の下で北条政子と愛を誓って結ばれたことから、この梛の木は、「縁結びの神木」と伝えられている。
また梛の葉は、簡単に裂けないので、その丈夫さにあやかって男女や夫婦の縁が切れないようにと、あるいは男女の間に波風がたたないようにとの願いから、ナギの葉と実女性がこの梛の葉を鏡の裏や箪笥の中に忍ばせていたとも伝えられている。
なお、梛の木は、松林寺でも、また観心寺の行者堂前の大師像のそばでも見られ、8月下旬、青白くて、美しい実を楽しむことができる。
ちなみに筆者は、蓋に竜胆車紋が彫られた香炉で香りを楽しみ、優雅な世界に遊ぶことがある。

西風狂散人(かわちのふうきょうさんじん)