“恵美須起こし”の鐘、長野神社で叩こう、起きろ!!【河内長野 こんなオモロイとこ!!】

 宝船に乗った七福神の一人にエビスさまがおられる。
 エビスさまは、左脇に鯛、右手に釣り竿を持った姿で描かれるように、海からの幸をもたらす神さま、海の幸を司る神さまで、元々は漁業の守り神であった。 
 しかし今は「商売繁盛で笹もって来い!!」の掛け声が沸き上がるように漁業の神様と言うよりは商売すべての守り神になり、福を求める多くの人たちに祀られている。

 我が国では、幸せも宝物も、そして災いさえも、そしてまた福をもたらす神々や七福神も宝船に乗って海の向こうからやってくると信じられていた。
 海の向こうに常世(とこよ)の国があり、そこから訪れる神々は漂着神と考えられ、その代表がエビスさまだったのである。
 なおエビスには、“エビス、恵比須、恵比寿、恵美須、
恵美寿、戎、蛭子”など多くの字が当てられている。

 エビス様は、イザナギ、イザナミの最初の子で、お生まれになった時から耳などが不自由な未熟児だったので海に流されてしまうが、この神は蛭子(ヒルコ)と言い、アマテラスやスサノオの長兄にあたる。
 海のかなたからどこかの岬に漂着する神もいれば宝船に乗ってやって来る神々もいる。しかし蛭子のように海に流されてしまう神もいるということであろうか。
 そして蛭子以外にもう一人、エビス様がおられる。
それが大国主命の子で事代主命(ことしろぬしのみこと)であるが、このエビスさまは耳が遠かったという話は伝わっていない。
 長野神社や烏帽子形八幡神社の恵美須社の祭神は、いずれも事代主命(ことしろぬしのみこと)で、特に烏帽子形八幡神社の祭神は美保神社(島根県松江市)からお招きしたとのことである。

 エビス(蛭子)さまは、耳が遠くて聞こえないとも、あるいはいつも眠っているとも言われ、願い事をする時は“一旦起こしてから”でないと聞き届けてもらえない。

そのため正面で鈴を鳴らし柏手を打ってお願いしていても、ダメかもしれない。そこで社殿の裏に回って“恵美須起こし”でエビスさまを起こしてから大声で願い事を言うと聞き届けてもらえると、あるいは正面で参拝した後、裏に回って“恵美須起こし”を鳴らしてからもう一度念押しのお願いをすると良いとも言われている。そしてこのような参拝を“裏参り”とか、“裏詣”とか言うようである。

 ところでエビス様には、蛭子のエビス様も事代主命のエビス様もおられるが、耳の遠いエビス様は蛭子で事代主命ではない。にもかかわらず事代主命を祀る長野神社で恵美須起こしの鐘”がある。なぜであろうか。

 ちなみに長野神社や今宮戎神社での“恵美須起こし”は、銅鑼であるが、三都神社(大阪狭山市)では木槌で板を叩いている。

それにしても“十日エビス”の時は、エビス様も参拝者の願い事を幾つもいくつも耳をソバダテて聞いておられるであろうし、ズート引切り無しに“恵美須越しの鐘”が鳴っているので寝ている暇などないのではなかろうか。

 話は変わるが心斎橋筋と戎橋筋の合流地・戎橋は、グリコの看板で特に有名な所、そして大阪の繁華街を代表する所であるが、この“戎”は今宮戎神社への参道が走っていることから名付けられたようである。

 ところで関西人は、神仏には何時も親しみをもって接してきたからであろうか、“さん付け”でお呼びしている。菅原道真が祀られ天満宮は、“天神さん”、住吉大社は“すみよっさん”、そしてこの恵美須さまも当然のことながら“えべっさん”である。関西人にとって神仏は自分を守り、願いを叶えてくれるごく親しい存在なのであろうか。

(筆者注)
(上)長野神社 恵美須社
(中)長野神社 恵美須起こしの鐘
(下・左)今宮戎神社の恵比寿起こしの銅鑼
(下・右)三都神社の恵比寿起こし
                     R2・6・11  横山 豊